狼のララバイ – ある憑依の物語 –

狼のララバイ – ある憑依の物語
前書き

今回はこれまでのクライアント様とのセッションの中で特に印象に残った「憑依にまつわる問題」を書き残しておきたい、という意図のもとに書かせて頂きます。
このブログの趣旨と一見関係が無いように思われるかも知れませんが、カーザにお連れする方の中にも憑依の問題を抱えておられる方は少なからずおられます。また、私のセッションにおいては憑依の問題に係り、天使やアセンデッドマスターなどの高次の存在の協力があり、それはたくさんいるカーザのエンチダージの何柱かと同一です。

そして憑依の問題というのは一筋縄ではいかない場合が多いように存じます。

今回はこれまでのセッションにおける1つの例で、私自身が憑依を本当の意味でどのようにとらえているかを示したいと思っております。なお、プライバシーに配慮し、一部設定およびご本人の属性を変更しております。

狼のララバイ – ある憑依の物語
ありふれた依頼

その電話があったのは昨年(2016年)11月の東京セッションの日程が決まって、1週間ほどたった頃のことでした。

女性の方で対面のエネルギーヒーリングを東京で受けたいとのこと。午前中のセッションを希望されました。フリーダイヤルからのお電話だったのでなにかのときのために連絡先を聞いたところ、必ず時間通り行きますので、大丈夫ですとの答え。事情があって連絡先が言えない場合もありますので、あまり気にしないようにしているのですが、あとでこのことは悔やまれました。とりあえず、お名前だけ伺って、こちらのホテルの名前と場所だけをお伝えしました。

当日になり、ホテルのエレベーターに乗るには部屋のカードキーが必要なので、待ち合わせ場所に指定しておいた1階のラウンジへ約束の時刻に迎えにいきました。

お顔を存じあげないので、お一人で座っている女性の方を探していたところ、二人連れが私に声を掛けてきました。一人は私と同じくらいの年代の女性で、もう一人は若い男性でした。女性が名乗ったので電話の女性とわかりました。仮に「三夜子(さよこ)さん」とお呼びます。

三夜子さんが手のひらを少し返して「これは私の息子です」といいました。お母さんとはあまり似ておらず、背が高く、とても整った容姿から、父親はどこか外国の方では、と思いました。

部屋に行く前にちょっとだけお茶をして行くことになりました。

三夜子さんは言葉をはっきりと話す方で、以前この辺に遊びに来たことがあるというようなことを話していました。オーラが若干人より薄いかなと拝見し、お疲れなのかもしれない思いました。ただ、歪みはあまりないようでご病気という感じはしませんでした。第七チャクラが人よりおおきく開いていたので、なにかスピリチュアルなことをやってますかと聞くと、若い頃は海外で児童支援ボランティアをやっていて、息子の父親ともそれを通じて知り合ったとのこと。

息子さんは二十歳くらいでしょうか、礼儀正しい青年で、なにも聞いていないのに、父親がドイツ人であること、いまは大学に通って建築学を学んでいること、今日は母親の買い物の付き添いで来たこと、このホテルにも一度入ってみたかったこと、などを話してくれました。仮に「ヨハンくん」と呼びましょう。

お母さんのヒーリングの間はホテルの周りを散歩しているとのこと。私が高層階に泊まっていることが判ると、後からで良いので私の部屋からの景色も見たいとのこと。

ただ、会った当初から気になっていたことがあって、それはヨハンくんのオーラはなぜかとてもくすんでいることです。恐らく基調色は青だと思われるオーラが黒に近い色になっています。それは青が濃くなって群青色になっていくような感じではなく、青に黒が注ぎ込まれた(黒で汚された)ような色になっている、ということです。

私がこれまでに会った黒いオーラを持つ人は、深刻なご病気であったり、とてもネガティブであったりと内面の問題を抱えておられる方が多かったように思うのですが、お話しを聞いている限り、とても明るくて前向きな感じがしていました。そして私が知っている黒いオーラのもう一つの特徴は「なにか外的な影響を受けいてる」というものです。

私のハイアーセルフは「ヨハンくんは一人ではない」という情報を私に伝えていました。つまりお母さん以外に最初から「もう一人だれかがいる」ような気がしていたということです。

とても気になりましたが、ヒーリングの依頼は三夜子さんだったので、そこでヨハンくんとは別れて二人でエレベーターに向かいました。

エレベーターが上がり始めると、三夜子さんの口から思いがけない言葉を聞くことになりました。

私はとりあえず世間話程度に「自慢の息子さんですよね」と言ってみました。
「いえ、そんなんじゃ、ないですよ…………。――あのぉ、本当のところ、息子のほうがヒーリングが必要なんじゃないかと前から思ってて、たぶん森さんが見たら判るんじゃないかと――それで連れてきたんです。森さんから見て、ヨハンはどんな風に見えますか……」

私もそのことを部屋に着いてからお伝えしようと思っていて、ただ、どうやって話を切り出したら良いものかと考えていたところだったので驚きました。そしてヨハンくんについての、さっきの自分の所見については手短に話しました。それから、
「でも、今日は三夜子さんのヒーリングだとばかり思っていたので、はっきりとしたことをお伝えするためにはもう少しヨハンさんと話す時間をいただけますか」と伝えました。

三夜子さんは、もし時間が無いようでしたら自分の時間をそっちに回してでもお願いしたいとのこと。午前のセッション時間は十分にとってありましたので、先に三夜子さんのヒーリングを終えました。

狼のララバイ – ある憑依の物語
尋常ならざる依頼

三夜子さんとのセッションにおいては三夜子さんとヨハンくんの「親子コードの問題」もはっきり判ってきましたが、テーマを絞るために割愛します。

三夜子さんはセッションを終えると自分の感想もそこそこに、ヨハンくんのことを話し出しました。
ヨハンくんが生まれた当初は父親と3人でハンブルグに暮らしていたが、ヨハンくんが二歳の時、ご主人とは別れて日本に戻ったこと。ずっと母子家庭で職を転々としながら、ヨハンくんを育てたこと。ヨハンくんが8歳の時、父親が日本に来て、1年くらいの短い期間、一緒に暮らしたこと。父親は日本で就職して、ヨハンくんは一緒に暮らした1年間の後も父親と時々会っていたこと。子供の頃、日本語の発音がおかしいと思ったので調べて貰ったところ、西欧人と日本人の口の中の構造が違っているので仕方がない、と医師に言われたこと等々。

しかし、なにより気になったのは、ときどき見えないだれかと話しているのでは、思うときがある、という話でした。

それから、三夜子さんは携帯を取り出し、ヨハンくんに「終わったよ」と伝えました。ヨハンくんはまだ外にいたようでした。三夜子さんは二人分の支払いを済ませると、ヒーリングの件はうまく伝える、といいました。カードキーは三夜子さんに持っていってもらって、部屋で待ちました。

ヨハンくんは部屋に入ってくるとすぐに窓際に行って「カーテンを開けて良いですか」、「バルコニーに出ても良いですか」というので「どうぞ」というと、バルコニーでしばらく楽しげに外を眺めていました。

ヨハンくんとは改めて向き合って話を聞き始めました。本当に端正な顔立ちをしていて、ときどきなにか気持ちの間合いをとるかのような少しまぶしげな目をしました。 アニメが好きだとのことでちょっと話を振るとまったく知らない深夜アニメのタイトルが出てきて、なにか時代を感じました。

それからヨハンくんは自分の家族の複雑な関係性をお母さんより上手に説明してくれました。これについても割愛します。

それはそうと、ヨハンくんが入ってきてから、なにか部屋の中で音がしていることに気付きました。

きしみのようだったり、ちいさな物がぶつかるような――カチ、コツ――という音です。三夜子さんへのヒーリング中には静寂を邪魔するものはなにもなかったように記憶しています。隣の部屋からの音でもないようです。これは何だろうと思っていました。

ヒーリングのことは三夜子さんからさっき聞いたようだったので、お試しでヨハンくんに両の手のひらを上に向けて出して貰い、エネルギーを当てて分かるかどうかを確認しました。これについては「はっきり分かる」とのこと。はっきり分かる人というのはとてもエネルギーに敏感ということですが、黒いオーラを持つ人はまず間違いなくエネルギーをまったく感じません。このことは不思議でした。

狼のララバイ – ある憑依の物語
ケモノに出会う

さっそく行うことにしました。ヨハンくんにベッドの片側に寄って仰向けに横になってもらいました。

私のヒーリングは最初に心の中で、高次の存在たちに祈りを捧げることから始まります(※これは私が現在提供しているマルコニクスヒーリングではありません)。そして場がクリアになることを求めます。ただ、なぜか今回は祈りの最中から、強い波のようなエネルギーがやってくるのが分かりました。最初から頭がボーッとしてきます。

ヒーリングは肉体には触れずに行います。最初に頭頂部から始めて、体の周りで手を動かし、エネルギーの反応を見ていきます。ヨハンくんの場合、どこもかしこも渦のような強い流れが起き、どこに何が必要なのか、分かりません。

ヨハンくんは「よくわかります、感じます」と言っています。

始めてほんのわずかの時間しか経っていないように思います。異変は私の方にやってきました。

繊細でひときわ強いエネルギーが波のようにやってきて、グワングワンと体の表面が波打っています。意識がなくなりそうになっていました。

誰かが私の手を動かしている――そんな感覚がありました。
「霊的手術を始めます」――そう、自分の口はきっぱりと宣言していました。
ヨハンくんの胸に自分の右手、お腹に左手を置いています。それは私のこれまでのヒーリングではなくなっていました。自分ではそんなことをするつもりなどまったくありません。でも手はヨハンくんの体にしっかりと固定されています。頭の中にはドン・イナーシオ・デ・ロヨラの顔がずっと浮かんでいます。

もう成り行きに任せるしかありませんでした。

手に感覚はあるのですが、自分では動かせず、1本1本の指の中を柔軟な細い光のワイヤーがたくさん動いているような感じがしていました。肩の辺りから腕、指の先まで空洞になっていて、その中をなにかが自由に動いているような感じでした。頭は前にも増して痺れたようになっていて、ほとんど目を開けていられませんでした。たまに薄目が知らずに開いて、ヨハンくんの体幹の中から細いたくさんの光が放射し、光ファイバーのインテリアのように動いているのがわかりました。

またちょっと時間がたったような気がしました。エネルギーの波は相変わらず、勢いよくやってきます。手の下のヨハンくんが動きはじめました。なにか小さなうなり声のようなものが聞こえ、獣のようなニオイが鼻をつきます。

するとヨハンくんが手の下で暴れ始めました。慌てて手をはずそうとしましたが、手は体から離れようとしません。

ヨハンくんがうなり声を上げていました。人の声ではありません。だんだん大きくなっていきます。

手首をつかまれました。最初に右手。次に左手。つかまれるというよりも爪で捉えられる、といった方が正しいかも知れません。ぎーっとすごい力で握られ、爪が食い込んできます。すごい痛みですが、ヨハンくんの体に貼り付けた私の手は離れません。そしてこのときは自分でも「この手は離してはならない」という思いがありました。

今度は手の甲をガリガリとされています。ヨハンくんはさっきまでのヨハンくんではなく、なにか別の生きものです。とても苦しげです。うなり声は咆哮となり、防音のしっかりしたホテルですが、隣に聞こえるほどです。

頭の中にクリアなイメージが湧いていました。奥の方に白い狐のようなものが4、5頭。手前に黒い犬のようなもの。黒い犬は追い詰められて凶暴になっているような、でもどこか悲しげな感じ――。白い狐は黒い犬を迎えに来たのでしょうか。首を回して黒い犬を待っているような感じです。

ヨハンくんが渾身の力で側転し、手が離れました。ダブルベッドの反対側に行ってしまい、もう手は届きません。エネルギーの波も途絶えたような気がしました。

そこでヒーリングは終わらざるを得ませんでした。

狼のララバイ – ある憑依の物語
語られたこと語られなかったこと

ヨハンくんはうつろな顔でベッドから降りてくると「いま自分は何をしていましたか」と聞きました。

私自身が呆然としていて、状況が分からずにいましたが、椅子を奨めて、話を聞くことにしました。

「もしかして森さんになにかしましたか」と聞くので「いやべつに、なにもなかったよ」と応えました。手のアザや傷が見えないようテーブルの下に手を置いておきました。でも上からのぞくと指跡とひっかき傷でミミズ腫れが出来て、血が滲んでいるのがわかりました。

「もし、なにかやったのなら、本当のことを教えてください」と言いました。

黙っていると「僕には××が付いているんです」と言いました。
「いまなんといいました?」
ヨハンくんの言った単語は耳慣れないもので、聞き返しましたがやっぱり分かりませんでした。後からそれはなにかドイツ語で精霊のようなものを指す言葉であることが分かりました。

それからヨハンくんは唐突に、自分は子供の頃レイプされたことがある、と話し始めました。
10歳の時、近所のおじさんに家で遊ばないかと誘われて付いていったとのこと。なんでこんな痛いことするのかな、とその時は思ったが、それ自体はなんとも思わなかったということ。ただ、そのことはだれにも言えなかったということ。

ヨハンくんが狼と一緒にいるようになったのはその頃でした。ヨハンくんはその狼を名前で呼んでいました。家族でもあり、親友でもあったとのこと。それ以来、その狼とずっとこれまで一緒でした。人に話したのはこれが初めて、と言いました。

それからベッドの足側の方を指さして「いまもそこにいるんですよ」と言いました。

沈黙がありました。

それから「第二次世界大戦中、ナチスが黒魔術を利用していたことは知っていますか」と聞いてきました。
ヨハンくんは父親の家系が黒魔術の奥義書のようなものを代々受け継いで来たということ、自分も父親が日本語に訳したその奥義書を引き継いだ、と言いました。

そして実際にヨハンくんは過去に黒魔術を人に頼まれて使っていました。16歳くらいので時です。1つの出来事として語ったのは、依頼者は女性、対象は不倫相手の男性で奥さんがいる人。自分が捨てられたことによる恨みで、相手の男を呪い殺して欲しいというもの。結果として相手は死にはしなかったものの交通事故に遭い、半身不随になり、女性の望みはほぼ叶いました。あろうことか、ヨハンくんは呪いの儀式のために野良猫をつかまえてきては、首を切り落としていました。

もちろん、黒魔術がどれほど強力であろうとそれを使う人間自体は、宇宙の法則、地球の設定した学びのためのシステムには従わざるを得ません。そうしたカルマは急速に結果をもたらし、ヨハンくんは別件の傷害事件で少年院に行くことになり、自分がしたこととの因果的なつながりを理解したヨハンくんは、黒魔術からは手を引くことになりました。

少年院を出た後は、もともと頭脳明晰なヨハンくんは大検に合格し、いまの大学に通い始めることになります。

ヨハンくんのこれまでの人生を振り返り、ごく単純な見方をすれば、幼少期の深刻なトラウマが低波動の意識状態を作り出し、そこに低波動の霊的な存在(狼)がやってきて、痛みから逃れたい一心で、ヨハンくんは助けてもらうこと、心を守ってもらうことに同意した、ということでしょう。ここでの霊的な存在は、耳慣れない言葉ですが「ディーヴァ(Devas)」と分類されるかと思います。日本語だと精霊が一番近い表現でしょうか。これは少し深い話ですが、その当人が過去世などに精霊として存在していたというような、それになじみ深い魂の性質がある場合に、引き寄せやすいといえます。

そうしたことは置いておくとしても、私が施術中に感じたもう一つの側面は、ヨハンくんに近づいた狼は、ヨハンくんのエネルギーを食い物にしてきたわけでも、ヨハンくんに悪さをしているわけでもない、ということです。本当に助けたいと思ってやってきて、いまもヨハンくんを守ってやりたいと本気で思っています。そして自分が離れることで、ヨハンくんがどうなってしまうのかと本当に心配している、ということです。引き離されると分かった際の狼狽は、こちらも気の毒なくらいでした。

また、ヨハンくんはヨハンくんで一緒に成長してきた兄弟のように思っているし、深い愛情を感じている、ということです。いわば相思相愛でしょう。

ただ、やはり問題になるのはそれが低波動であり、ヨハンくんが本来持っているエネルギー波動を低くしているということです。

私が狼に感じていたのは深い愛情で、とても強いものですが、それは私がエンチダージに感じるような、無償の愛ではなく、やはりケモノの愛情、仔の危機を感じると反射的に自分が先に殺してしまうかのような、本能的な愛情ということでしょう。

そしていまヨハンくんは、霊的な成長のプロセスで大きなシフトの時期にいます。過去の傷に少しずつでも良いので向き合うこと、何があったかを明確にすることで感情的な解放――ブロックを外すことが必要だということです。つまり、慰めてくれるやさしい手触りを提供してくれるだれかと一緒にいることではなく、しっかり自分の光を見つめることであり、傷は癒やされなければならない、ということだと思います。

こういったことは一般には憑依(ひょうい)と呼ばれますが、仔細にみれば、その人が自分の心を守るために緊急避難的にやってきた側面もあるわけで、すべて自己責任と括って済まない部分が多い、と思っています。もちろん、それを含めて、起こることはすべて必然ですので、それが他からどのように見えたとしてもヨハンくんのハイアーセルフ(高次の自己)が設定した事件と状況であることには間違いがないのですが。

ヨハンくんには、今の状況について色々説明しました。自分の問題に向き合って欲しいとお願いしました。

ヨハンくんは顎のあたりに曲げた人差し指を当ててしばらく黙ってしまいました。とても困惑しているように見えました。

セッション時間はすでに2時間以上オーバーしていました。

「ちょっと自分なりに考えてみます。また、あらためて連絡します」とヨハンくんは言いました。――が、その後、連絡はありませんでした。

こうした精霊のようなものと蜜月的な関係性が出来ている場合、それを誰かに生木を裂かれるように取り去られるのではなく、その人自身が自分にとっていま必要な事を理解して手放すこと、しっかりとお別れをいうことが、やはり手順なのだろうと思います。

そういう意味で私がしようとしていたことも拙速だったのでは、といまでは思っています。

狼のララバイ (了)

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